赤門技術士会 副会長 中村 博昭
私が技術士としての活動を開始してから20年が経ちました。この間、多くのプロジェクトに携わり、さまざまな分野の専門家と交流する機会に恵まれました。その中で私が強く感じたのは、「技術士」という資格が、単なる技術力の証明に留まらず、多分野の人材と深くつながるための架け橋として機能するということです。また、先輩方が築き上げた経験と知見に学びながら、その恩恵を次の世代に伝えていく重要性を再認識しています。
最近、技術士が直面する大きなテーマの一つが「AIとの共存と活用」です。AIは急速に進化し、私たちの技術士業務にも影響を与え始めています。この流れをどのように受け入れ、活用していくべきかについて考える機会が増えました。
AIを恐れるのではなく、味方にする
AIの普及は「仕事を奪われる」という懸念を生みます。しかし、技術士としての強みは、単なる知識や技術の提供ではなく、問題を発見し、その解決に向けた最適な道筋を描く力にあります。この「思考」と「判断」は、AIだけでは実現できない領域です。むしろ、AIを活用することで、技術士が得意とする創造的な部分に集中できる環境を構築できます。
たとえば、データ分析やシミュレーションの分野では、AIは膨大な作業を短時間でこなすことが可能です。その結果として得られるデータをもとに、技術士が「どのような価値を生み出すか」を考える余裕が生まれるのです。AIを恐れるのではなく、業務の効率化や新たな視点の獲得を可能にする味方として活用することが重要です。
多分野連携の新たな形
技術士は、多様な分野の専門家との協働が求められる職業です。AIはこの協働をさらに強力にするツールになり得ます。たとえば、異分野間での技術用語や知識のギャップを埋める役割をAIが担うことで、よりスムーズなコミュニケーションが可能になります。
また、AIによる予測モデルを用いることで、複数の専門分野にまたがるプロジェクトにおいて、より精度の高い計画が立てられるようになるでしょう。
AIとの付き合い方を模索する未来
AIの進化はこれからも続きます。その中で技術士として求められるのは、AIを使いこなすだけでなく、その限界を理解し、人間の強みを最大限に活かすことです。AIの分析結果を盲目的に受け入れるのではなく、それを批判的に検証し、価値ある結論を導き出す能力が、技術士の真価を問われる場面となるでしょう。
また、倫理的な観点も忘れてはなりません。AIの利用にあたっては、公正性や透明性を確保する責任があります。技術士がAI活用の先駆者となるためには、この倫理的な視点を持ち続けることが必要です。
おわりに
これからの時代、技術士はAIという新たなツールを活用しながら、従来の「人間らしさ」をさらに深める必要があります。先輩方への敬意を忘れず、多分野の仲間と連携しながら、新しい可能性を切り開いていきたいと思います。
技術士とAIの共存は、私たち自身の進化でもあります。この新たな挑戦を、皆さんとともに考え、実践していけることを楽しみにしています。
ーおわり(2024年12月22日)ー
赤門技術士会は、東京大学を卒業した技術士を主要メンバーとする、事務所を持たない交流・親睦団体です。