◆第7回赤門技術士会総会・講演会 聴講記◆

☆このレポートは、去る2024年6月22日(土)に開催された第7回赤門技術士会総会・講演会の聴講記です。

 

「日本の宇宙開発の現在と未来」聴講記

 

 今日は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の佐々木宏様の講演だ。海外各国が新たな宇宙開発にしのぎを削る中、日本はどうなんだろう? 期待の講演が始まる。

 

Ⅰ.日本の宇宙開発の現在 ~2024年前半のトピックス~

1.無人月探査機SLIMの高精度月面着陸成功(1/20)

 ややひっくり返った姿勢になったが、世界5か国目の月面着陸に成功。最も高精度の着陸を実現した。具体的には100m以内の精度。さらに、原子力発電を持たない探査機として、「越夜」に2件目の成功をはたした。 ⇒ おー、地球の南極では「越冬」が大変だけど、月面では「越夜」なんだ!

 着陸地点は、「うさぎ」の右耳辺り。ひっくり返った姿勢のため、かえって月面の岩石がよくカメラにとらえることができた。 ⇒ なにっ、パピヨン、プードル、柴犬、土佐犬だと? 岩石ごとに、犬の名前が付けられている。岩石の大きさがイメージしやすいように、だって。だから猫ではなく、大きさのバリエーションがある犬の名前。科学者もやるなぁ。

 50m上空時点では、着陸目標点からわずか12mの位置だったが、その後、2機のエンジンの一つが故障し、結果横ずれして目標から55mの地点に着月した。「かぐや」等の事前情報も加味しての画像航法が成功した。 ⇒ 温度が比較的安定し、水氷があるといわれる月の南極に降りるためには、この高精度着陸技術すなわちこの画像航法が必要なんだって。

 SLIMに搭載した小型ロボットは、 地球までの情報通信が可能な「LEV-1」と超小型のLEV-2(SORA-Q)。LEV-2が撮影した画像をLEV-1に送信し、地球への送信に成功した。 ⇒ SORA-Qは玩具として売り出したら完売したらしい! うわっ、「チョロ-Q」の宇宙版か!

 

2.H3ロケット2号機の打ち上げ成功(2/17)

 N1ロケット、N2ロケット、H1ロケット、H2ロケット、H2Aロケットと、5~6年おきに新ロケットの開発を進めてきたが、安定打ち上げ技術をめざし、H2A(2001年)以来、20年空けて新ロケットH3の開発をすすめた。技術伝承の面で人的にぎりぎりのタイミングで、本来はもう少し早いほうがよかったかもしれない。 ⇒ 式年遷宮における宮大工と一緒で、20年以上空けると技術伝承が途切れるんだって!

 開発においては、「日本の打ち上げ能力の確保」と「国際的に宇宙ビジネスとして成立」の両輪を目指していて、安定かつ低コストが必要。6/30に次の3号機の打ち上げを準備中。 ⇒ おーっ、打ち上げ成功の動画だ! 超絶の迫力。ロケットの管制は、種子島宇宙センターの管制塔、総合司令塔、内之浦の地上局、と発射から数分間のうちに順次引き継がれたようだ。

 メインエンジンは液体の水素/酸素、これだけでは推進力が不足するので両サイドに固体燃料の補助エンジンをつけ、これは打ち上げ途中に切り離す。メインエンジンは一段目を400秒程度使ったのちに分離し、二段目を点火する。失敗した1号機は一段目まではOKだったが、二段目が作動しなかった。これらの対策をとって2号機の打ち上げに臨んだ結果、このように成功して、16分後に軌道に乗った。 ⇒ うん、軌道に乗った時点での管制室内の喜びようの動画も感動的。「衛星を軌道に乗せる」というミッションを果たしたのちに、自らは燃え尽きるというロケット。日本人として感傷をそそられる。。。。

 

3.古川宇宙飛行士が国際宇宙ステーションから無事帰還(3/12)

 3月12日に古川宇宙飛行士が帰還した。古川さんは。現役の東大出身宇宙飛行士で医学部出身、もう一人の現役は大西宇宙飛行士で、こちらは工学部。 ⇒ 明日、古川飛行士は東大で報告会だって。これも聞きたいけどねー。

 古川さんは197日間も国際宇宙ステーションに滞在した。引退した宇宙飛行士では土井さん、野口さん、山崎さんの三名が東大出身。次世代の若手候補者のうち二人は東大の理学部と医学部の出身で、宇宙飛行士は東大出身が多い。宇宙飛行士の最終選考には手先が器用な人が残りやすいようにおもう。結果として、東大出身の研究者と医学部出身者が多い。 ⇒ 確かに、外科系のお医者さんは、執刀や手技などのため手先が器用でないとだめ、という話はよく聞く。

 国際宇宙ステーションにおいて、日本の実験棟「きぼう」を利用した古川宇宙飛行士の取り組み例には、次のようなものがある。

 ①立体臓器創出、②水の再生、③無重力化での燃焼、④ドローンのソフトウエアにチャレンジ

 

4.NASA長官と文科大臣による月面活動の実施取り決め署名(4/10)

 日本からNASAには有人与圧ローバ、NASAから日本には宇宙飛行士2回の月面着陸の機会を、それぞれ提供する。 ⇒ 天体表面の探査車を「ローバ」と呼ぶらしい。「与圧」というからには、内部では宇宙服なしで過ごせるんだろうな。

 

5.地球観測衛星「EarthCARE」の打ち上げ成功(5/29)

 欧州との協力により開発した気候変動の予測向上を目的とした衛星で、雲・エアロゾルの挙動を観測する。天候の予測も、よりスムーズになる。  PM2.5みたいな粒子をエアロゾルというのだ。

 

Ⅱ.今後の方向性

1.宇宙政策 宇宙基本計画(2023年6月改定)

 目標としては、(1)宇宙安全保障の確保、(2)国土強靭化・地球規模課題への対応とイノベーション、(3)宇宙科学・探査における新たな知と産業の創造、(4)宇宙活動を支える総合的基盤の強化、の四つがあげられる。JAXAだけではなく、オールジャパンとして国が主導する。JAXA(技術サポートと資金配分)+大学+民間の協業が期待される。 ⇒ 宇宙産業の世界市場は約54兆円で、その1/4が各国予算、3/4が民間。2040年には140兆円。その中で、日本の宇宙機器産業+宇宙ソリューション産業で約4兆円。2030年代に約8兆円になるんだって。でかい。

 この中でのJAXAの立ち位置は、政府全体の目標に対する実施機関である。宇宙政策担当大臣のもと、文科省、経産省、国交省、防衛相etc.などと連携する。現在は、第4期中長期目標期間の最中で、前述の4目標にむけて、推進中。 ⇒ (1)安全保障については、説明を控えるとの事。そりゃそうだ、機密の塊だろう。

 

1.1 国土強靭化・地球規模課題への対応とイノベーションの実現

 各種衛星として、GPS、放送衛星、地球観測(災害監視、リモートセンシング)などを行うものと打ち上げてきた。今年打ち上げを予定しているのは、ひとつは「だいち4号」で、成功すれば1mmオーダーで地表の変化を観測でき、発災後の状況把握や、火山活動、地盤沈下、地すべり等の早期発見が期待できる。もう一つは、GOSAT-GWと呼ばれる温室効果ガスと水循環の観測技術衛星。 ⇒ 昨年のトルコ地震や今年の能登半島地震の観測も、打ち上げ済み・運用中の「だいち2号」で行っているらしい。

 

1.2 探査

 現在は、「国際宇宙ステーション」などの①「地球低軌道活動」が中心だが、②「月面持続的活動」、③「火星・それ以遠の深宇宙探査」に発展してゆく。

①地球低軌道

 国際宇宙ステーションの「きぼう」は2030年までの運用が決定されているが、それ以降は NASAから民間主体へ移行を検討中。 米国ではすでに民間化つまり民間商業ステーション構想が複数進行中。

②月面

 米国アルテミス計画は、月面持続的有人活動に加えて、2030年代の火星を目指している。2020年代前半に有人月周回拠点「Gateway」を設置して有人月面着陸をめざし、同じく後半から2030年代には、移動用有人与圧ローバに加えて、原子力発電、月面通信、南極にベースキャンプなどを月面に配置する計画。この計画に、日本としては、月周回拠点である「Gateway」居住棟に対して生命維持システムの提供物資の補給、宇宙飛行士1名の滞在を協力する。月面の活動に対しては、「SLIM」のデータ共有や与圧ローバの提供と取得データの共有を行う。 ⇒ また出てきた「与圧ローバ」。大型バスぐらいの大きさで、2名が乗車して月面に42日間滞在・移動できるものだそうだ。

③火星・深宇宙探査

「はやぶさ」「はやぶさ2」の後継として、火星衛星探査計画「MMX」が進行中。フォボスに行ってサンプルリターンをめざしている。 ⇒ そのほか、水星、金星、木星にもすでに探査機が向かっているんだ。さらに土星探査も開発中らしい。

 日本が得意とする小天体探査は、太陽系形成起源の解明に資するものである。 ⇒ どうやって地球をはじめとする衛星に水がもたらされたのか、がわかるかもしれない。

 

1.3 宇宙活動を支える総合的基盤の強化

 基幹ロケットとしてH3の開発と継続的な運用・強化を進めている。H3は3種あり、補助用の固体燃料ロケットがないもの、+補助ロケット×2のもの、同じく×4のもの。今後、年間6~8基の打ち上げを計画している。さらにベンチャーでは、将来の宇宙輸送システムの研究開発プログラムが進んでいる。 ⇒ ロケットとはいえ、翼を有していて、打ち上げ後、地球にもどってくるようなシステムもあるんだ。「スペースシャトル」みたいなイメージかね。

 

2.宇宙戦略基金

 文科省・経産省・総務省などからJAXAに総額1兆円規模の基金を設置し、民間や大学の研究開発を支援する。JAXAは日本の宇宙開発の中核機関として、産学官の結束点となって我が国の宇宙活動の加速に貢献して行く。基金にかかわる「基本方針」では、①輸送、②衛星等、③探査等の各方向性に沿った技術開発を推進する、としている。

 第一期テーマとして、①輸送4件、②衛星等8件、③探査9件、①~③共通1件について公募し、JAXAがサポートして行く。

 

Ⅲ.最後に

 2024年は、多くのミッションが実行され、宇宙開発が注目を浴びている。日本はロケット衛星の開発から利用まで実施が可能で、実績から世界のトップ4の国。

 一方でインド等の新興国や、民間主導の開発も活発化している。今までJAXA中心に研究開発を進めてきたが、これからはオールジャパンで世界市場と競争する。宇宙関連産業は基盤の強化と拡大が急務なので、宇宙戦略基金が新設され、JAXAは中心的役割を果たす。

 

【質疑応答】

Q1:能登半島地震について、地表変動を見て研究をしている。地表変動を検知するセンサーの開発はJAXAでやっているのか。

A1:JAXAにはセンサーの知見がないので、他の専門家と組んで進めている。

 

Q2:日本において、民間のロケット開発はどのレベルにあって、今後どのようなすみわけをするのか。

A2:つい最近失敗したが、システムとしてほぼ完成していた。小衛星の打ち上げレベルはかなり高い。ただ、開発の完成には一般的に大きな障害を乗り越える必要があり、少し時間はかかるかもしれない。

 

Q3:生命科学の観点からみて、宇宙や月面での活動は、将来一般人でも可能になるか、それとも限られた身体能力の高い宇宙飛行士のみか。

A3:地球の周回のレベルなら、一般人がいくことができる。そのあたりを、医者であり元宇宙飛行士の向井千秋さんが検討している。 月や火星では、ハードルがあがる。現在はまだデータ取りの段階で、今後明らかになる。

 

Q4:小型ロケットSS520の活用はどうか。

A4:SS520最小ロケットの活用もあるが、S-1ロケットなどがその後継であり、JAXAで維持するより、小型ロケットは民間への移行してゆくのが希望である。そうならなければ、JAXAとしてのSS520の活用もあり得る。

 

Q5:地球観測衛星が小型化できないのは、光学系の問題なのか。

A5:超小型では、信頼性(耐熱)、通信量などが問題。これらをつぶしていけば、小型を複数使いで大きな観測装置の代わりになる可能性がある。

 

Q6:JAXAに寄付した場合、ふるさと納税のようなメリットはあるか?

A6: かつて、寄付いただいた際に探査機に名前が付けたことがある。一般的な寄付控除のレベルのメリットがある。

 

Q7:打ち上げ等の失敗の中身・原因の公開はどうしているか。

A7:失敗学の畑村先生が一時JAXAに来られていて、勉強会をしていた。失敗の原因は詳しく報告している。そうしないと次の打ち上げをさせてもらえないので。

 

以上(文責:赤門技術士会幹事 萩野新)