□2023年度赤門技術士会総会(第6回)講演会□
「まちなかウォーカブル ~都市計画の目指すもの~」聴講記
[久々のリアル&ウェブのハイブリッド総会。講演会は、我らが会長、東大副学長の浅見泰司先生。演題は「まちなかウォーカブル ~都市計画のめざすもの~」だ。どんなお話しが聞けるか、楽しみ。]
【1.ウォーカブルな都市空間】
都市計画における「まちなかのウォーカブル」は、今や流行になっている。「当たり前、なにを今更」ではなく、「老いは足から、歩くことは大切」へ、元気を保つことが重要になってきた。「ウォーカブル」とは、「歩ける、歩くことができる」ということ。最近は、法律にもなっていて、「都市再生特別措置法」(2020年改正)では、「居心地が良く、歩きたくなるまちなか創出による魅力的なまちなかづくりの制度」が定義された。区域を設定したうえで、区域内の官民一体の取り組み、交流、空間などを形成する仕組み。中心市街地の活性化、土地税収の増加、交通弱者に優しいまち、を目指す試みが国策として行われている。 [ほー、そんな事が行われているんだ。確かにぶらぶら歩ける街は、筆者のような歳になると必要だなー。]
この法律の元になったのは、「都市の多様性とイノベーションの創出に関する懇談会」中間とりまとめ報告書(2019)。 [おー、浅見先生が座長だそう。]
まちなかに多様な人にあつまってもらう。土地の価格が安くなってしまうと、固定資産税が免税になってしまうので、税収のためには、ある程度地価が高い地域が必要。官と民のパブリックな空間を、人中心の空間にする。従来は、官と民の各管理地の間に柵などを作っていたが、そうではなく連続的な空間として、中間領域を活用する。仮設、暫定利用、実験な、LQC(軽くて、素早くて、安くつく)アプローチに力を込める。だから、完成や成熟を目指すのではなく、暫定利用で構わない。ある種の社会実験である。大臣に伺候した。結果として先ほどの法律になった。 [「社会実験」と! 今風だなー。]
以上は国交省の所管だが、もっと広動きとして、「健康日本21」として、21世紀における国民健康づくり運動として、日常生活における歩数の増加を目指している。目標は一日当たり、男性9,200歩、女性8,300歩。 [結構大変。]
ここで、歩きやすい町を考えてみる。まず、米国ロサンジェルスの地図。一区画が大きいので、車を使いたくなってしまう。次は、同じくサンフランシスコの地図。一区画が大分小さいので、歩きやすそう。これに対して日本の本郷の地図。一区画はもっと小さくて歩きやすい。ごちゃごちゃしてるのもプラス。 [確かに、後楽園から東大本郷まで歩いたことがあるが、楽しく歩けた!]
一方、米国では、肥満が社会問題。そのため、歩行を促す市街地環境をはかるための尺度である「NEWS」が設定されている。 [NEWSは、何かの頭文字だったが、聞きそびれた。。。。。 後日、失礼ながら今流行の生成AIに教えてもらったところ、Neighborfood Environment Walkability Scale。歩道の広さ、舗装の質、安全性なども評価要素になる、とのこと。]
その中では、徒歩圏内に日常的な駅や買い物などの施設がある、歩行者用道路が整備されている、沿道の緑や景色が美しい、交通事故や犯罪の危険が少ない、などが重要とされている。 [相当する実際の町の写真を見せていただいたが、良いかんじだね。ただし、日本にNEWSを適用してみても、町々の間にあまり差が出なかったそう。日本のまちは、基本的には結構ウォーカブルなんだね。]
【2.ウォーカビリティ促進の例】
(1)姫路市における取り組み
駅前の従来は広幅の車道だったところに、車道幅を狭めて歩行者エリアを増やしたら、賑わいが戻って地価が上がった。さらに、人が憩える芝生も整備した。このように大胆な取り組みは、すぐ近くに周回道路があったので可能だった。 [車の交通量が減ったのに、賑わいは増すとは。発想の転換だ!]
(2)東京豊島区池袋の取り組み
従来は閑散としていた南池袋公園に、芝生広場を導入し、カフェなどの出店を招致したところ、カップルや親子連れなどが集まって、レジャーシートを敷いてくつろぐなど、明るい雰囲気に変化。ユーザーとしての若者やファミリー層を取り込んだ。 [ここは筆者のホームグランド。たしかに、賑わっている公園だね。]
(3)岡山市問屋町の取り組み
元々は繊維関係の卸売業の町だが、流通形態が変化してこの生業(なりわい)が衰退して、町からの撤退がつづいていた。定款を変更して卸売業者以外の入居を可能にしたところ、家賃が下がって入りやすくなっていたこともあり、一般商店の進出が進んだ。その結果、繊維問屋と飲食店や衣料・雑貨店が同居する新しい商業スポットに生まれ変わった。 [他にも、日本中の取り組み例が満載。結構、いろいろな工夫が実際になされている!]
(4)まとめ
居心地が良く、歩きたくなる「まちなかづくり」のためのプロセス。改変の仕組み作り ⇒ まちの魅力作り ⇒ 交流拠点形成 ⇒ 多様な人々の交流 ⇒ 起業を見せる・社会実験 ⇒ 魅力の発見 ⇒ 新たな工夫 [ポテンシャルの発見が重要なんだね。人口減少や過疎の続く町では、どうしたら?]
【3.ウォーカビリティの研究例】
(1)よこはまウォーキングポイント事業
すでに2014年から横浜市で実施されていた事業で、参加者に歩数計を無料配付。歩数によりポイントが付与され、商品券がもらえる。これにより、大規模なデータ収集可能に。その結果、20℃前後の時、ひとは最もよく歩く。これより寒い時より、暑い時にとたんに歩かなくなる、などが判ってきた。 [そりゃ、炎天下では歩きたくならんわな。以降の研究は、この事業のデータからのもの。]
(2)AR(拡張現実)ゲームと歩数の関係
ARゲームである「ポケモンGO」で、どのくらい歩くようになったか。2016年6月のリリース以降、プレーヤーは非プレーヤーに比べて、直後の夏場の歩数減少は同じようだったが、秋以降データのある2017年3月まで、終始歩数が多かった。ただし、ゲームに飽きたプレーヤーがある程度いたためか、両者の差は縮まった。その中で、55~64才の仕事をもつ男性のグループでは、最も両者の差が大きかった。このグループでは、一度ゲームにのめり込むと飽きずに長続きするようだ。若者は、とっつきやすいが飽きやすい。 [うひゃ、図星。筆者は今もプレーを続ける典型オジサンだ!]
(3)居住空間と歩数の関係
一般的には、駅や商業施設が近いほどよく歩く。 [そりゃ、遠ければ車に乗りたくなるなぁ。] ただし、中年男性は逆で、商業施設に遠い方が歩数は多い。就職率が高いので、日常的に通勤のため移動していて、むしろ遠い分、よく歩く。 [おー、頑張れ、中年サラリーマン]
(4)買い物距離と栄養状態
フードデザート問題(食べ物の砂漠)と呼ばれている。高齢者にとっては、買い物距離が短いことが日常の利便性に大きく影響する。遠いと生鮮食料品を取らなくなり、栄養状態に影響する。特に低所得者層にとっては、廉価の食料品を売っている店舗が歩行圏内に存在することが重要。
【4.おわりに】
(1)ウォーカビリティが注目されている。
(2)それが魅力作りになり、商業集積と集客の相乗効果につながる。
(3)ウォーカビリティの特性として、次のようなものがある。
①気温などにより歩数が変化する
②後期高齢者や中年女性は駅に近いと歩数が多い
③地区の傾斜度が大きい場合、中年女性では歩行強度が高くなるが、高齢女性ではむしろ歩かなくなる
④商業施設までの距離が長いことが生鮮食料品の摂取頻度を低める
(4)歩行者にとって、空間的な魅力は重要である。
(5)人が集まれば集客力につながり、より稼げる空間に変容する。
(6)それが健康状態にも影響を及ぼしうる。
[前期高齢者に入った筆者としては、やはり歩かねば。がんばろう!]
【質疑応答】
Q1:プロジェクトプラトーやコンパクトシティとウォーカブルとの関係は?
A1:プラトーというのは、国交省が3次元のデータの整備を進めているもの。洪水、空気汚染などが判る。ウォーカビリティとは、坂道などで関係がある。例えば、渋谷は傾斜が多い。再開発時に「坂道を歩かなくてすむように」を意識した。コンパクトシティとは、なるべく市街地を小さくしようとするもの。徒歩圏のなかに集約する傾向が強いので、ウォーカビリティとの関係は非常に深い。
Q2:傾斜地の魅力を高めるには?
A2:すでに申し上げた以外には、最寄り駅から常設エスカレータを置いている例がある。さらには、バスを通すとき、家から下のバス停で乗って、帰りは上のバス停で降りる等の例もある。基本的に傾斜地は日当たりや眺望において大きなメリットがある。
Q3:高輪ゲートウエー開発の話しを聞いたことがある。このような場合の土地の権利の整理の仕組みは?
A3:典型的な例として、大丸有(東京都心の大手町、丸の内、有楽町)では、地下街を作ること、景観を高めること、などの協定を結んでいる。他にも協議会を作るなど、様々な取り組みが各地で出来ている。例えば、空き店舗の目立つまちなか商店街全体をホテルに見立てて、宿泊・食事・土産など、個別に得意とする商店が新に出店することを協議会が促進する例などがある。
Q4:研究結果の中で、男性の方が良く歩くとあったが、一般的に女性より短命なのはなぜ?
A4:専門外で恐縮だが、一般的に言われるのは男性の方が生物的に弱い。歩くだけで、それを逆転することが難しいのかと。
Q5:キッチンカー、軽トラなど安上がりな工夫例は?
A5:キッチンカーのフェスティバルなど、地方都市では頻繁にやっている。パリでは、マルシェが魅力になっている。私の経験では週2回開かれていたが、キッチンカーより更に安上がりなやり方。いずれも、投資がいらないので、失敗しても低リスク。他の例では、団地に軽トラで野菜を売っている。過疎地では特に有力だ。2回/週で良いので、週に3カ所回れるので商圏が3倍になる。
Q6:免許不要なシニアカー、キックボードは、ウォーカビリティの観点からどうか?
A6:自転車では研究があるが、これらはこれからの研究になる。
Q7:同じく、電動アシスト自転車は、ウォーカビリティの観点からどうか?
A7:坂道が苦にならないので、徒歩よりも行動範囲が広がる。さらに、家から出る機会を増やすという意味で、とても重要である。
(文責:赤門技術士会幹事 萩野新)
赤門技術士会は、東京大学を卒業した技術士を主要メンバーとする、事務所を持たない交流・親睦団体です。